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 「ヒロイモノ」 / 賽藤点野

 思うにこの国は物が多すぎるんだと思う。
 思う、を重複するよろしくない文章になったが、本当に物が多い。無駄無駄無駄に多い。
 「おちょこ」にバケツで酒を注がれるぐらい、日々物が生産される。何だ上司の酒が飲めないのか〜と。この国《おちょこ》から溢れた酒が別の外国《おちょこ》に入ればいいのだが、ある程度の量は机にこぼれてしまう。
 そしてそのこぼれたのを啜る輩が出てくる。俺の妹とか。……あ、もちろん比喩表現。俺の妹小学一年生。お酒は二十歳になってから。
 まあようするに我が最愛の妹はよく物を拾ってきてしまうってこと。ペットボトルとかのゴミ。電気機器とかのゴミ。動植物とかのゴm、エフンエフン、生き物。広い範囲に渡る。
 小一なら物事の判断もつく年齢だと思うのだが……自分も十二年前そうだったのかよく思い出せないもので妹を強く叱れない。妹ラヴだからじゃあない。思い出せないから。
 尊大なる父母は妹の行動を微笑ましく見守っているが、拾い物を処理する係の俺は少々参っている。特に生物様を妹から取り上げて元の場所に戻すのは小パンチの後に投げの大技を喰らうくらい胸が痛むのだ。
 それもこれも、小学生が啜れる高さに酒を溢す大人達が悪いのだ。アルコールハラスメントは重罪なんだぞ。
「あにうえ。あにうえ」
 ああ、妹が帰ってきた。いつも思うけど大河ドラマなんて観せなきゃよかった。
「聞いてよです。今日はすてきなのをひろってきたよです」
 さすがに十二年前の自分はちゃんとした言語を話せたと思う。まったく今日は何だ。空き缶か。乾電池か。犬か。
 ――――。
「えへへ〜ひろったのは〜わたしのもの〜です」
 妹は戦利品を撫でた。頭から血を流した少年を。
 ああ今日は「拾い物」じゃなくて「拾い者」か〜これは一本取られたな〜そんなのが拾えるなんてやっぱり春ね〜あっはっは〜じゃなくて。
 じゃなくて。
 俺は法定速度を守らないスピードで受話器を掴んだ。さあポリスメン仕事です。いや、救急車が先か。てゆうかこれ俺が誘拐したみたいになってるんじゃないか。
 おい妹何嬉しそうな顔してやがる。何なの。その子好きなの。最近の任侠映画でさえもっとファンシーな恋愛してるぞ。お前なんか嫌いじゃ。
 安否を確かめる上では最善でも俺個人の体裁のために少年が目覚めないことを祈りながら電話のボタンを押した。
 その電話もかつて妹が拾ってきた物だということを思い出して、本当春って最高だと思った。

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